時代とロック ： 昭和の香り Part 3 / ユー・リアリー・ガット・ミー

彼女に会ったのは立春も過ぎた頃。

彼女が放った “昭和の香り” は一陣の風となり、まるで春一番のように、さっと私の心の中を吹きぬけた。

その風は心の中に積もっていた埃を少し払いのけてくれた。

10代の頃に夢中だったロックに積もっていた埃を少し払いのけてくれた。あの頃、熱狂的にロックを聴いていた人たちは今、何をしているのだろうか。

心の片隅に残っているはずのロックは埃の中に埋没しているのだろうか？それとも少年期に患った熱病を忘れようとしているのだろうか？また、何かの理由でそれを隠して生きているのだろうか？



私はもうすぐ48歳になる。

10代の頃に比べて、体型も崩れ、ベストの頃より体重は8キロもオーバーしている。

髪の毛こそ未だちゃんと残っているが、白いものがここ最近すごく増えた。時の流れだけは平等だ。それは過ぎ去った痕跡を万人の体に刻み込む。

体力は40歳を越えてから、まさにガクッと落ちた。

それに従って酒の量もすっかり少なくなった。20代の頃はウイスキーをボトル一本飲んでも少しフラフラする程度でへっちゃらだった。しかし今、その頃と同じように飲むと、翌日は一日中ひどい二日酔いに苦しむことになる。

歳をとり、体力が衰えると、人は知らないうちに保守的になる。



時代の空気は私をあの頃へ連れ戻した。

“昭和の香り” に運ばれて、私は突然10代に戻り、21歳の女性と話をしていたのだ。

そして色々なことを思い出しながら、少し元気になった。

ロックを聴き始めたあの頃に戻り、人生をリセットしたいとは思わない。だがロックが授けてくれたあの頃の心をもう一度取り戻したいとは思う。世界を変えられるのは自分たちだと思っていた、あの頃の心を。10代の頃に大切だったものは、今でも大切なはずだ。だからいつかその時が訪れるまで、私はロックを聴き続けようと思う。死神とはもう腐れ縁だ。



彼女の後から、キンクスの《ユー・リアリー・ガット・ミー》が突然流れ始めた。

弾けるようなギターのサウンドは10代の視線にぴったりだ。




Kinks, the / ザ・キンクス
You Really Got Me / ユー・リアリー・ガット・ミー

update 2004/03

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