2002年7月24日水曜日

自分史とワールドカップ / 第3章 / 第13回メキシコ大会


1984年の秋に合計5年間の大学生活を終えた。

そして翌年の85年の春からエール・フランスの子会社で働き始めることになる。勤務地はパリ近郊のシャルル・ド・ゴール空港。

空港は祝祭日を問わず機能している。夜中に到着するカーゴ便などのフライトを入れると、24時間・年中無休のようなところだ。だからそこで働く者の勤務シフトも変則で、6日間働いて3日間休むシフトが多くのところで採用されていた。

部下にはフランス人だけではなく、アラブ系、東南アジア系移民等、いろいろな人種がいた。そんな多国籍軍的なチームを構成するスタッフの共通の話題といえばF1であり、テニスであり、そしてなんと言ってもサッカーだった。彼らにとって翌年の初夏に開催されるワールドカップ・第13回メキシコ大会は待ち遠しいイベントで、あの名前が希望と共に語られていた。

今度こそ絶対にプラティニがフランスを優勝に導く・・・。

そんな連中に感化され、ワールドカップは私にとっても避けて通れないものになっていた。学生時代にはサッカーにあまり興味を示さなかった私の豹変ぶりに、かつての悪友、ジョルジュやエリックは苦笑していた。



ルイス・フェルナンデス、ジャン・ティガナ、アラン・ジレス、そしてミッシェル・プラティニで構成される豪華なMF陣はたしかに素晴らしかった。全盛期を迎えた彼らが支えるフランス代表チームは確実に悲願の初優勝を狙えるだけの力を備えたチームだった。だが反対に今大会で優勝を逃すと、これだけのメンバーが揃わない4年後の苦戦は明らかだった。

準々決勝でフランスが対戦するのはブラジル。

その歴史的な試合は1986年6月21日(土)グアダラハラにて行われた。

カレッカが前半に、そして後半にはプラティニがゴールを決め、同点で試合は延長にもつれ込む。そしてこの試合のハイライトを演出するのはGKのジョエル・バッツ。

バッツはジーコとソクラテスのPK(しかもジーコのPKは確か延長戦後半)を止めるという超ファインプレーを連発し、PK戦を制したフランスの劇的な勝利に貢献する 。

この試合は1998年にジダンがフランスを優勝に導くまで、伝説として多くのフランス人に語り継がれることになる。 

翌日6月22日(日)、メキシコに隣接するアメリカでF1グランプリ・デトロイト戦が開催された。

ブラジルの若き天才ドライバー、アイルトン・セナは柵に囲まれたデトロイトの市街地コースで二人のフランス人ドライバー、ジャック・ラフィットとアラン・プロストを抑えきり、優勝を飾る。翌日のスポーツ新聞の一面はブラジル国旗を手にしながらウイニング・ランを走るアイルトン・セナの姿。そしてタイトルは "La Vengeance de Bresil / ブラジルの復讐" だった。

準決勝でフランスは再び西ドイツと対戦する。しかし前大会のリベンジは成らず、またしても敗退。その後ベルギーを下してフランスは3位を確保するが、その先に待っていたのは長くて暗いトンネルだった。



フランスは敗れ、“将軍” プラティニは残された最後の勲章であるワールドカップ優勝をとうとう手にすることが出来なかった。サッカーにおけるMFの面白さを私に教えてくれたプラティニが去り、そんな彼と入れ替わる様に、未だ少年の面影を残した新しい名選手が西ドイツから現れた。

それはローター・マテウス。

しかし残念ながら西ドイツは決勝戦でアルゼンチンに3 - 2で破れ、前大会に続き優勝を逃してしまう。



ワールドカップも終わり、夏が過ぎ、秋を迎えた頃から社内である噂がひそひそと流れ始めた。そしてそれはクリスマス前に現実のものとなり、私や仲間を直撃した。

業績不振の為、私が所属していた部署は廃部となり、私はリストラの憂き目にあう。



第13回メキシコ大会
1986年5月31日~6月29日

最初に選ばれたコロンビアが83年に世界最大のサッカー大会を開催する力がないと訴えたことによる代替開催としてメキシコ大会は実施された。

前大会がパオロ・ロッシの大会ならば、この大会はディエゴ・マラドーナの大会とも言える。82年のフォークランド紛争以来、初の当事国同士の対戦としても注目を集めていたアルゼンチン対イングランド戦は、マラドーナの “神の手” と “60メートル・5人抜き” の2得点で、ワールドカップ史に残る試合となった。そんな全盛期のマラドーナがほとんど1人で優勝をアルゼンチンにもたらした。

今大会でモロッコはアフリカ勢として初めて1次リーグを通過した国となる。

得点王には準々決勝でマラドーナに破れたイングランドのリネカーが6得点で輝く。

update 2002/07

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