2000年11月30日木曜日

冬の快感 / コヨーテ


ヨーロッパの冬は、寒くて、暗くて、厳しい。

スペインのサラマンカにいた頃、古い建物の中庭に面した小さな部屋に住んでいたことがある。

日が当たらないので夏はひんやりとしていて住み心地が良かった。しかし冬は寒かった。古い建物で天井も高く、セントラル・ヒーティングもあまり機能しなかっ たからだ。だから暖房の代わりに “Carlosなんとか” というブランデーをストレートでグビグビ飲んでいた。

スペインは “情熱の国” 的なイメージで暖かい所だと思われているが、内陸地方で標高が高いサラマンカの冬は寒かった。ちなみにサッカー選手の城の移籍先だったヴァヤドリッドもサラマンカの近所で同じように寒いところだ。

フランスでパリ郊外(Vanves / ヴァンヴ)に住んでいた時の部屋も寒かった。それほど古い建物ではなかったがヒーターがボロで、暖まらない。しかしその頃は寒さに対する免疫が出来ていたのか、それほど寒さは苦にならなかった。

日本に帰国して驚いたのは冬がそれほど寒くない事。だからフランスで着ていたブレザーやコートなんかを着ると日本では暑くて仕方がない。



フランスでの学生生活が終わり、エール・フランスとパリ空港公団が出資する会社に就職した。勤務地はパリ北東部に位置するシャルル・ド・ゴール国際空港だった。空港というと近代的なイメージだが、滑走路の下には兎の巣が沢山あるらしく、飛行機や整備車の近くを兎がぴょんぴょん走り回っていた。

空港勤務だから休みのシフトは少し変わっていた。6日間働いて(祝・祭日関係無し)3日間休むという独特のローテーションだった。この3日間連続で休めると いうシフトは結構気に入っていた。だが出社時間はかなり不規則で、ある日は早く、ある日は遅く、これには少し難儀した。



ある冬の日の朝、5時頃に尿意をもよおして目が覚めた。外は未だ暗く、室内はかなり寒い。さてトイレへ行くべきか? 我慢するべきか? う~ん悩む。

自然現象には逆らえず、寒さに震えながらトイレへ行った。ぶるっと身震いしながら用をたし、白い息を吐きながら急いでベッドへ戻ると、ふと思い出した。今日は平日だが私は休みなのだ! それならゆっくり朝寝坊が出来る! 労働者諸君よ、頑張って働いてくれ、だが私は休む!

放尿後のスッキリ感、ベッドの心地よい暖かさ、平日に休む妙な優越感。



それは快感の三重奏



底冷えする寒い冬の朝の特別な状況下でしか味わえない気持ちよさに包まれていると、透明感溢れる凛々しいアコースティック・ギターのサウンドと共に、ジョニ・ミッチェルのしなやかな歌声が聞こえる。

曲は《Coyote / コヨーテ》。

名盤『hejira / 逃避行』の最初の曲だ。とにかくクールなこのアルバムは寒い冬に聴くにはイチ押し。ジャケットも抑えた色使いでモノクロに近く、なんとなく冬景色っぽい。

ちなみにジャケットのデザインもジョニ・ミッチェル自身が手掛けている。

ん~ん、才女だなぁ。


Joni Mitchell / ジョニ・ミッチェル
Hejira / 逃避行

※ hejira とは Muhammad の Mecca から Medina への逃走のことらしい。

update 2000/11

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