2001年8月1日水曜日

夕焼けと缶ビール / スパニッシュ・キー


西方向に縁があるようだ。

フランスで一番長く住んでいたのが、パリ郊外の古い二階建ての家。

それはパリから南に延びる郊外線、RERに乗って約15分、Bourg-la-Reine / ブール・ラ・レーヌ(女王の街)という名の駅で下車し、東へ徒歩約20分のところにあった。

駅から15分程歩いた後に、“心臓破りの丘” とでも呼べる急な登坂があり、飲んで帰った時、この坂道には結構苦しめられた。

第一次世界大戦前に建てられた古い家で、風呂は無いしトイレは離れにあるし、不便だったがその分家賃がとても安く、貧乏学生には有り難かった。

それに二階建てだけに広く、地下室と庭付きなのも魅力的だった。そして高台の二階建てだけに見晴らしは抜群。

二階の部屋の窓は西向きで、そこから外を眺めると視界を遮断するものは何も無い。緑溢れるパリ郊外の住宅地や、天気が良ければ、遠くにパリの街並みやエッフェル塔が見渡せた。



今住んでいる所は高台にあるマンションの最上階。

西側のベランダに出て外を眺めると、正面眼下の遠方にはなだらかな丘、北西には大阪市内の高層ビル、その向こうに六甲山もかすかに見える。見晴らしは格別だ。

高台で西向きの部屋に住んでいると、時々すばらしい夕焼けを見ることが出来る。



青い空を背景に描かれるオレンジ色のヴァリエーションとグラデーション。

その色彩を吸い込み、濃縮し、そして反射しながら浮遊する雲のフォルム。それはヒトが人間になる前から、太古から見ていた色彩と形。遺伝子はその美しさを忘れる事無く記憶している。

コロンブスやマゼランが西へと進路を取り、その後、新大陸の住民も西へ西へと開拓に向かった。西の空に映える夕焼けの美しさの向こう側には何かが隠されていると思ったのだろうか・・・。



West is the Best



夏の暑い日、美しい夕焼けを正しく眺めるには、よく冷えた、それこそ「参った!」 と言う程よく冷えた缶ビールが必需品だ。ビールはコップに注がずに、缶から飲むのが夕焼け鑑賞時の正しいビールの飲み方だと思う。

出来ればその前に一風呂浴びて、さっと体を拭き、洗った髪の毛から水滴が落ちてもかまわず、腰にバスタオルを捲きつけ、ノーパンで台所に一直線、冷蔵庫から 缶ビールを取りだし、ベランダへ直行、夕焼けを見ながら缶ビールをグビッと飲む。風呂を出てからグビッまでの所要時間は約15秒。これが理想的な夕焼け鑑賞方法だ。



夕焼けが目に焼き付き、ビールが胃袋の中で泡を立てて弾ける。

突然、ドラムとパーカッションがリズムを奏でる。空を切り裂くギターのフレーズと浮遊するエレクトリック・ピアノのトーン、地を這うように徘徊するバス・クラリネットの音色がそれに重なる。そして来世から鳴り響く様なトランペット。

マイルス・デイヴィスの《Spanish Key / スパニッシュ・キー》が聴こえる。

ジャケットの燃えるひまわりのような赤い夕焼けを見ながら、顔はジャケットの黒人女性みたいに汗まみれで飲む冷たい缶ビール。

そんな夏の一時を今年も過ごそうと思う。


Miles Davis / マイルス・デイヴィス
Bitches Brew / ビッチェズ・ブリュー

update 2001/08

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