2010年5月25日火曜日

ベルリン・フィルのハードロックなサウンド


André Cluytens / アンドレ・クリュイタンス指揮によるベートーヴェン交響曲全集を長い間探していた。

オランダのDISKY社が版元のEMIからライセンスを得て再販しているが、ボックス表面のデザインがあまりにもひどいので買う気になれなかった。



ベートーヴェンのデスマスクを使ったこの不気味なデザイン、安物プログレ・バンドのCDみたいだ。

先日、少しまともなデザインの輸入盤(EMI France)をようやく見つけたので、早速購入してみた。



まぁ、このデザインも大したことはないが、許容範囲内だ。



ベルギー生まれの指揮者、アンドレ・クリュイタンスによるこのベートーヴェン交響曲全集は、ベルリン・フィル最初のベートーヴェン交響曲全集。1957年から1960年にかけて、EMIにより録音されている。

オーストリア生まれの指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンがベルリン・フィルの終身首席指揮者兼芸術総監督の地位を得たのは1955年。

クリュイタンスは帝王・カラヤン統治下のベルリン・フィルで、今風に言うとアウェーで、上記のベートーヴェン交響曲全集を完成させたことになる。これはある意味で、快挙と言えよう。

そしてカラヤンも負けじとばかり、1961年から1962年にかけて、ドイツ・グラモフォンにベルリン・フィルと最初のベートーヴェン交響曲全集を録音する(その後カラヤンは2回も同全集をベルリン・フィルと録音することになる)。

つまりベルリン・フィルは1957年から1962年にかけて、二人の指揮者とベートーヴェン交響曲全集を録音したことになる。

私はこの二つのベートーヴェン交響曲全集を聴き比べたかったので、クリュイタンス盤を探していた。



聴き比べてみると、相違点よりも類似点の方が面白い。

一番の類似点は、かつてのベルリン・フィルが奏でる独特の荒削りで硬いサウンド。

カラヤンが室内楽的で流れるような合奏力を求め、改造してしまう前のベルリン・フィルが奏でていたサウンドは、こんなにザラついた、硬くて男性的なものだったのか。

アップテンポの部分で聴くことが出来る中低弦のうねり、金管の炸裂から生まれるサウンドは凄い迫力。まるで分厚い鋼の壁のように、圧倒的な存在感でそびえ立つ。

そしてこれらの音が、まるで時化た北海の大波のように、容赦なくぶつかり合う。

これら二つのベートーヴェン交響曲全集の主役はベルリン・フィルのサウンド。



以前に同じようなサウンドの感覚をどこかで味わったことがあるなぁ~とぼんやり考えていたら、思い出した。

これはLed Zeppelin / レッド・ツェッペリンの『Presence / プレゼンス』(1976年)を初めて聴いた時に感じたものに近い。

怒涛の勢いで始まる《Achilles Last Stand / アキレス最後の戦い》。

流れ出る、分厚くて、渋い銀色の、硬いサウンド。


Led Zeppelin / レッド・ツェッペリン
Presence / プレゼンス

1957年から1962年にかけて、ベルリン・フィルはハードロックなサウンドを先取りしていたようだ。



レッド・ツェッペリンが好きで、ベートーヴェンの交響曲をまとめて聴いてみたい方にはクリュイタンス盤かカラヤン盤(1962年版)をオススメします。

リュイタンス盤はラフ&タフ、下半身がずしんと重い。

カラヤン盤は少しメタリック、エッジが効いて鋭角的。

以上はあまりにも独断に満ちた私見です。

update 2010/05/25

2 件のコメント:

みのりん さんのコメント...

小生もZeppはプレゼンスが一番印象に残っています。
分厚いのに、鳴っている楽器や音の数は、驚くほど少ないんですよね。
成功したハード・ロック・バンドは、ほぼ例外なくドラムが凄い。それもバス・ドラムの音が凄いと思います。
言われてみれば、たしかにエロイカ自体、様式美に走る前の時代のハード・ロックに通じるところがありますから、妙に予定調和的な演奏よりも、暴力的でアナーキーな楽器の鳴らし方が合っているのかもしれません。
クリュイタンス盤、聴いてみたくなりました。

dkcosmos さんのコメント...

≫ みのりんさんへ
5月26日に頂いていたコメント、どういう訳か今日発見しました。お返事が遅くなり、申し訳なく、赤面の至りです。クリュイタンス盤をお聴きになられたら、ご感想をお聞かせください。私は凄く気に入っています。

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