深夜のタクシー / 月光のドライヴ

我が社のある一部の社員の間では会社支給のタクシーチケットの事を “リーサル・ウェポン” と呼ぶ。

つまり終電が出てしまった後、家に帰る為の “最終兵器” という事だ。

しかし残念ながら大阪では深夜のタクシーに乗っても美しい夜景は楽しめない。

ミナミか宗右衛門町あたりで飲む事が多いので、夕陽ヶ丘から高速に乗って帰るが、途中の道路周辺には店のネオン、電照看板ばかりで殺風景な風景が続くだけだ。



パリに住んでいる時（厳密に言うと、パリから少し離れた郊外）、飲んだ後、よくタクシーで帰った。

パリの中心部から時間にして約20分程度。料金は約2,000円ぐらい。自分のポケットマネーで十分支払える程度の額だ。

日本と比べてずっと安い料金も嬉しいが、パリならではの素晴しさは、美しい夜景がもれなく無料で付いてくることだ。

フランスではネオンや看板の規制が厳しいので、街並は昼間も十分美しいが夜はもっと美しい。

肌寒くなった秋、深夜のタクシーでの帰宅は突然ナイト・クルージングに一変する。

セーヌ河に架かる橋、ルーブル美術館中庭のピラミッド、ノートル・ダム寺院、パンテオン、アンバリッド、コンコルド広場、そしてエッフェル塔、どれもがきれいにライトアップされ、闇夜にくっきりと浮かび出す。

そして、夜空には秋月。



月まで泳ごう、ムーンライト・ドライブ



突然タクシーの中で、パリで死んだジム・モリソンの歌声が聴こえてくる。

蛇のように絡みつくロビー・クリーガーのギターが聴こえてくる。

そう、《Moonlight Drive / 月光のドライヴ》が聴こえてくる。

ジムが眠るペール・ラシェーズへ寄っていくか・・・。



ドアーズの傑作アルバム、『まぼろしの世界』に入っている《ムーンライト・ドライブ》。何時からか深夜のタクシーに乗るとこの曲が頭の中で流れ出す。

運転手、今は話しかけないでくれ。静かに聴かせてくれよ。

私だけに聴こえるドアーズの《ムーンライト・ドライブ》。

音楽が終わったら、ライトを消そう。


The Doors / ドアーズ
Strange Days / まぼろしの世界

update 2000/10