2000年10月17日火曜日

ラ・マンチャの野良犬とハム


1979年5月末頃、スペインのラ・マンチャ地方をヒッチハイクで旅行した。

ラ・マンチャ地方は首都マドリッドの南に広がる、風が強くて標高の高い地域だ。

ラ・マンチャの “マンチャ” とはアラビア語で “乾いた土地” の意味したといわれる。またスペイン語では “染み” を意味する。この地方は乾燥した赤土地帯で、草木は少ない。上空から見たら、赤い “染み” みたいに見えるだろう。

とりあえず当時住んでいたサラマンカからマドリッドまでバスで行き、そこからヒッチハイクで古都トレドに入る。あとは出たとこ勝負で一週間ほどラ・マンチャ地方をぶらつき、シウダ・レアルで旅を切り上げる。

道路際で親指を立て、親切にも止まってくれた車の行先次第で自分の行先を決める。そんな気儘な小旅行だ。

まるで赤土の砂漠みたいで、周りにはほとんど何もない。ゆるやかに起伏する丘の先に、風車がその姿を時折見せる程度だ。強風で土埃が舞い、ジリジリとした日差しが垂直に落下してくる。そんなところをロードムービー風にヒッチハイクでブラブラと一人で旅した。

金があまり無かったので、夜は寝袋で野宿。

主食はパン、トマト、ハム、チョリソ、チーズなど。どれも通りすがりの街の市場で買ったものばかりだ。土地のワインは安かったので結構飲んだ。

ある夜、風車の近くで野宿の準備を終えて、ハムとチーズを肴にワインを飲んでいた。羊の乳で作るラ・マンチャ地方のチーズは少し塩辛くて、ワインに良く合う。

すると痩せてはいるが、大きさはシェパードぐらいの野良犬が一匹、ぶらりとやって来た。眼光鋭く、なにやら険しい表情だ。どうやらここはヤツの縄張りらしい。こんなところで襲われると難儀だから、ショバ代としてハムを1枚くれてやった。

なんじゃ、こんなモンしかないのかよぉ~。 

野良犬は明らかに落胆した表情でハムを食った。

そしてがっくりと肩を落として去っていった。



あ~あ、ハムをやって損した。



野良犬の食べ方があまりにも貧相だったので呆れた。もっと美味しそうに食べろ!オマエさんはハムを貰っておきながら、謝意を表すこともできんのか!この礼儀作法をわきまえん無粋な野良犬め!

少しばかり腹が立った。

しかしラ・マンチャの野良犬は人様が食べるハムよりも美味しいものをいつも食べていたのだろうか?それともハムに飽きていたのか?ひょっとすると、ハムよりチーズが食べたかったのか?

いまでも疑問だ。

2000/10

0 件のコメント:

コメントを投稿