2004年9月10日金曜日

Lennie Tristano / レニー・トリスターノ


Lennie Tristano / 鬼才トリスターノ
1955

ピエト・モンドリアンというオランダ人画家がいた。

第二次世界大戦の戦火を逃れて、1940年にオランダからアメリカはニューヨークへと渡り、44年に没する。だからニューヨークの近代美術館にはモンドリアンの多くの作品が所蔵されている。

モンドリアンのスタイルはドイツ表現主義の流れをくむワシリー・カンディンスキーの “熱い抽象” とは正反対で、“冷たい抽象” と呼ばれることがある。

それは水平と垂直の黒い直線によって分割された画面に、赤・青・黄の三原色と白のみを用いるというストイックなスタイルだ。

しかし晩年のモンドリアンはストイックなスタイルから少づつ離れ、カラフルで暖かい作品、例えば『ブロードウェイ・ブギ・ウギ』のような作品も残している。

ビ・バップ系のバド・パウエルがカンディンスキーならクール系のレニー・トリスターノはモンドリアンだ。

このアルバムから聴こえてくるのは、モンドリアンの絵画から伝わるバイブレーションと似ている。硬く、研ぎ澄まされた構築美が聴こえてくる。

トリスターノは盲目のピアニストとして知られているが、彼は生まれながらの盲目なのか、それとも後年視力を失ったのだろうか。もし後者なら、トリスターノはモンドリアンの絵を見たことがあるのだろうか・・・。

アルバム前半はトリオ構成で、トリスターノはピアノを収録した部分のテープの回転数を故意に上げ、 オーバーダビングしたらしい。だからここで聴こえるピアノの音は通常のものより無機質で金属的なものだ。そこまでしてでもトリスターノは一切の感情移入を拒否する構築美を打ち立てたかったのだろう。

しかしアルバム後半では、まるで晩年のモンドリアンのように、トリスターノの音楽からも硬さがとれて、リー・コニッツ等とまろやかな演奏を聴かせてくれる。

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