2000年11月5日日曜日
緊張した状態でしゃぶしゃぶを食べると箸はブルブル震えた
一度だけトークショーの司会を務めた事がある。
時は1996年10月19日、場所は神戸ハーバーランド。
断れない人に頼まれて引き受けた。ギャラは全く無し。完全に “友情出演” だ。
トークショーの相手は船木誠勝。“パンクラス” に所属するプロレスラーだ。
“400戦無敗”“世界最強”の称号を持つヒクソン・グレイシーとの対戦や映画『五条霊戦記』にも出演していたので、知っている人も、ちょっとはいるだろう。
セールスプロモーションを兼ねた『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』出版記念イベントの一環としてのトークショーだった。
私にとってアントニオ猪木は現人神みたいな存在だ。船木誠勝は新日本プロレス出身で、アントニオ猪木直系のレスラーの一人だ。
つまり船木誠勝は現人神の孫みたいな存在なのだ。大のプロレスファンの私には、とても普通の人のように接する事はできない。
話は横道にそれるが、アムステルダムのスキポール空港で、前田日明と偶然逢った時も滅茶苦茶緊張した。仲違いをしても前田はアントニオ猪木直系のレスラーの一人だ。
アントニオ猪木直系のレスラーに逢い、その上に本職ではないトークショーの司会までする訳だから、緊張するなと言う方が、土台無理な話だ。
当日は無礼がないように、ラルフ・ローレンのシャツ、ダンヒルのネクタイ、チャーチの靴等、滅多に着ない一張羅を引っ張り出し、それで身を固めた。
控え室の扉を開けると、いきなり広い背中が目に入った。
船木誠勝が立ち上がり、挨拶を交わしながら握手をした。
大きくて、分厚くて、硬い手だった。
冷や汗をかきながらも、なんとかトークショーは無事に終了した。
その後、主催者と船木誠勝と私はしゃぶしゃぶを食べに行った。
しゃぶしゃぶは私の大好物の一つだ。しかし今回の同伴者は現人神に近い船木誠勝。いつものペースでパクパク食えるほど私の神経は図太くない。同席しているだけでも緊張して汗がタラタラ状態だから、「小食ですねぇ、もう少し如何ですか?」 と進められても、箸が自由に動かせない。
言霊のような船木誠勝の一言一言が脳細胞に働きかけ、ミーハー的擬似宗教体験が身体の正常な動作機能を奪う。
箸を持つ手はアル中の様にブルブルと震え始める。そしてしゃぶしゃぶの神戸肉からタレがボタボタと容赦無くダンヒルのネクタイとラルフ・ローレンのシャツに落ちる。
そしてネクタイとシャツはポン酢タレとごまダレによる見事な柄の造形作品に一変した。
船木誠勝も呆れていたに違いない。
教訓 : 緊張した状態での食事は必ず汚点を残す。
私の箸の使い方がヘタクソなのも原因の一つだが・・・。
2000/11
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