2003年2月13日木曜日
冬の小旅行で出会う可能性のある小雪
冬の或る日、裏日本の福井へ行った。
車ではなく、在来線を乗り継いで行った。
車内で酒を飲み、みかんを食べながら、暗くて、どんよりとした日本海側特有の鉛色をした冬空をぼけ~っと眺めながらの小旅行だった。
日が暮れた夕方、雪が降り積もった片田舎の駅で下車した。
改札を出て通りの向こうを見ると小さな古い居酒屋がある。降っている雪が邪魔をして暖簾に書かれた屋号が読めない。キュッ、キュッ、キュッと雪を踏みしめながら、とりあえず通りを渡り、その居酒屋に行ってみることにした。
暖かいものが飲みたい。暖かいものが食べたい。
重い引戸をぐっと開けると、そこから古い裸電球の黄色い光と一緒に、しっとりとした暖かい空気がふわ~っと外へこぼれ出てきた。狭い店内に漂う煮物の美味しそうな匂いの向こう側には年配の女将がいる。そして地元の常連らしい年配の男が一人、所在無げにぼんやりとカウンターにひじを付いていた。
とりあえず熱燗と湯豆腐を頼んだ。体を温めながら、ちびちび日本酒を飲んでいると二人の会話が耳に入る。
「ところで、看板娘は何処へ行っとるんじゃ?」
「ちょっと二階で片付け事をしとるから・・・ もうすぐ降りてくるわ」
そんな話が聞こえてきた直後に、店の奥から、とっ、とっ、とっ、とリズム良く階段を駆け降りる足音が聞こえてきた。
ほっそりとした体に厚手のセーターを着た、色白で頬のほんのり紅い娘さんが降りてきた。
長い髪を無造作にかきあげながら降りてきた。
裏日本の風に吹かれて
凛とした風情に陰りのある表情。
どことなく寂しげな上目づかい。
小雪にはひんやりとした裏日本の気候が良く似合う。
冬の寒さに磨かれた古い居酒屋で女将の手伝いをする娘の姿が良く似合う。
小雪にはモノクロな匂いがする。
小雪は小学校の同級生だったのだろうか。すっかり忘れていた女の子が突然目の前に現われたような、奇妙な親近感を彼女には覚える。
小雪には昭和の匂いがする。
update 2003/02
つづき ・・・
ロックのアルバムで雪の日を感じるのはジョニ・ミッチェルの『逃避行』。
1曲目《Coyote》が流れ出した途端、ひんやりとしたアコースティックなサウンドが部屋の中に満ち溢れる。それは雪の日の朝の静謐な空気感。
Joni Mitchell / ジョニ・ミッチェル
Hejira / 逃避行
なぜか、私にとってストラヴィンスキーの《ペトルーシュカ》は雪の日の音楽。
命を吹き込まれて恋を知る人形の物語で、冬とは全く関係無いのだが・・・。不思議。
Igor Stravinsky / イーゴリ・ストラヴィンスキー
Petrushka / ペトルーシュカ
Leonard Bernstein / レナード・バーンスタイン
New York Philharmonic / ニューヨーク・フィルハーモニック
update 2009/10/01
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿