深夜の主人公 / スーパースターとグルーピー

中学3年生の頃、机の上には主がいた。

それは勉強机の右奥にデ～ンと構えた、くすんだ黄色の真空管ラジオだ。

チューニング・ボタンの部分は銀色でスピーカー部分の布地は茶色だったと思う。



夕食をそそくさと終えて机に向かう。

その頃は受験勉強の真っ最中。

一番苦手の数学や一番得意の英語の問題集を睨みながら聞いていた深夜放送。

ひんやりとした夜の静けさの片隅から流れてくる歌謡曲やフォークソング、そしてポップスのメロディー。

深夜のラジオは狭くて重苦しい “四畳半・受験勉強追い込み編” の登場人物をスーッと別世界へとワープしてくれた。

シャープ・ペンシルを動かす手を止めて、聞き入ってしまうその瞬間。

問題集に注がれていた視線が一瞬ラジオのスピーカーに向かうその瞬間。

そう、待っていたあの曲のイントロが流れたその瞬間、勉強机の上は自分だけの小さなライブハウスに変わる。

黄色い真空管ラジオの奥からこぼれ落ちたメロディがノートや参考書に染み込む。

受信状態も悪く、ステレオでもなく、今のFM局から流れるクリアな音質とは雲泥の差だったが、そこには音楽や語りを渇望していた思春期真っ盛りの小僧がいた。

そんな音のラジオから流れる番組をヴォリュームを絞り込みながら毎晩聞いていた。今日はあの曲が、ひょっとするとあの曲も聴けるかもしれない。



It's just a radio . . .



ラジオから流れる曲をテーマにした歌、といえばカーペンターズの《Yesterday Once More / イエスタデイ・ワンス・モア》を思い出す方も多いだろう。

この曲はアルバム『ナウ & ゼン』に収録されているヒット・ナンバーで、レコードではB面1曲目に納めれらていた。その後に50年代後半から60年代前半にヒットした懐かしのナンバーの数々がラジオ番組風にメドレー形式で続く。

しかし私にはカーペンターズの別の曲がラジオと深く結びついている。

彼らの数多いヒット・ナンバーの中でも一番好きな《Superstar / スーパースター》だ。この曲ではラジオから流れる甘く澄みきったギターの音色が大切なポイントになっている。

《スーパースター》はカーペンターズの代表的なヒット曲の一つで、カーペンターズのオリジナルのように思われている。

しかし原曲はボニー・ブラムレットとレオン・ラッセルの作品で、デラニー&ボニーの6枚目のアルバム『D & B トゥゲザー 』に収録されている。

原曲のタイトルは何と《Groupie / グルーピー》だ。

クリーンなイメージで人気の高かったカーペンターズは曲のタイトルを変えた。そして歌詞の中でも “to sleep with you again” を巧妙に “to be with you again” と変えている。

カーペンターズの糖分や脂肪を抑えた、上品でローカロリーなケーキ風の《スーパースター》も美味しいが、デラニー＆ボニーの葉巻の匂いが漂う、苦味の効いたアーシーでソウルフルな渋い《グルーピー》も味わい深い。


Carpenters / カーペンターズ
Now & Then / ナウ・アンド・ゼン


Carpenters / カーペンターズ


Delaney & Bonnie / デラニー＆ボニー
D & B Together / D & B トゥゲザー

update 2001/11