2000年10月30日月曜日
女のコがやって来た / 長い夜
私の部屋に初めて女のコが遊びにきたのは中学3年の冬だった。
小学生の頃に女のコが遊びに来たことはあったが、異性としての自覚を持った後に女のコが私の部屋にやってきたのは中学3年の冬が初めてだと思う。
当時、私はロックにハマっていて、毎日放課後はロックの師匠であるITO君の家でレコードを聴きたおしていた。
ITO君は圧倒的な枚数のレコード・コレクションを誇っていた。特にブルース系ロック・グループのレコードが多かった。しかしその彼が持っていないレコードを持っていたのがF-KAWAさんだった。それはどちらかというと我が師匠が好んで聴くタイプのものではなかった。
しかし不肖の弟子である私はそのレコードが聴きたくて仕方がなかった。
だがレコードは貸さないし、借りないのがロック仲間のルールだった。
なぜなら貸したレコードにキズをつけられる事があまりにも多かったからだ。
少ない小遣いで買ったレコードにキズをつけられる事ほど悲しい事はない。それに大切に扱っていたジャケットが汚されている時もショックだ。だからそんなルールが生まれ、どうしてもそのレコードが聴きたければ持ち主の家に行って聴かせてもらうことにしていた。
そのレコードは聴きたい。しかし女のコの家へ単独で乗り込み、聴かせてもらう程の勇気は無い。
そうこうしているうちに、F-KAWAさんがそのレコードを貸してあげると言い出した。
しかしロック仲間同士でのレコードの貸し借りは厳密に禁止されている。
レコー ドを学校に持ってきて貸し借りしているのがバレたら大変だ・・・。
掟破りには村八分があるのみではないか・・・。
しかしF-KAWAさんはロック仲間ではなのでは・・・。
では借りてもいいのかな・・・。
しかし借りたいのはロックのレコードだ・・・。
う~ん、どうしよう・・・。
そんな状況だったから、ある日の夕方、F-KAWAさんはわざわざ私の家までそのレコードを届けてくれた。
しかし玄関でレコードを受け取って、「はい、サヨナラ!」ではあまりにも可哀想だ。だから照れくさかったが自分の部屋に案内し、私が気に入っていたサンタナの『Abraxas / アブラクサス』を一緒に聴いた。
4時25、6分前
F-KAWAさんが貸してくれたのはシカゴの『Chicago / シカゴと23の誓い』。当時このアルバムに入っている《長い夜》がヒットしていた。原曲名は《25 or 6 to 4》。
夕食を済ませた後、この2枚組アルバムを一気に聴いた。
密度の濃い圧倒的なヴォリュームで迫るブラス・ロックのサウンド。
全曲聴き終わった後は疲れてぐったりしてしまったが、何かすごく大きな仕事を成し遂げた後のような、奇妙な充実感に満たされた。それは今までどんなロックを聴いても感じる事が無かった不思議な達成感だった。
こんなに充実したロック体験もめずらしいので師匠のITO君にも報告したかった。しかし掟を破って聴いたレコードだけに残念ながらそれは出来なかった。だからシカゴの話題は私とF-KAWAさんだけのものになった。
今思うとシカゴのギタリスト、テリー・カスとF-KAWAさんは雰囲気がよく似ている。ファビュラス・フリーバーズ時代のテリー・ゴーディ(プロレスラー)もテリー・カスに似ている。
F-KAWAさんはシカゴの他に当時人気のボビー・シャーマンのレコードも貸してくれた。《Easy Come, Easy Go》なんかが入っていた。
Chicago / シカゴ
Chicago / シカゴと23の誓い
update 2000/10
※ テリー・カスは1978年にピストル事故で死去。テリー・ゴーディも2001年に心不全で死去。F-KAWAさんは元気だろうか・・・。
update 2002/11
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