2004年10月10日日曜日

Mozart, Wolfgang Amadeus / ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト


Mozart, Wolfgang Amadeus 1756-1791

アルフレート・アインシュタイン(アルベルト・アインシュタインの従弟で音楽学者・モーツァルト研究家)による死の定義:死とは、モーツァルトを聴けなくなること。

モーツァルトに20代半ばで出会えた事は幸運だった。

まだ若くて色々な音楽を聴く時間があり、またそれを消化する体力もあり、そして何よりも感動できるだけ脳細胞が元気だった時期にモーツァルトと出会わなかったら人生の楽しみが確実に一つ減っていただろう。

繊細で大胆な旋律の中から溢れ出る格調高い気品とほのかな色気。

モーツァルトを聴いてしまうと、全ての音楽が、バッハやベートーヴェンの作品でさえ、無骨に感じられてしまう。



Die Zauberflöte / 魔笛


Otto Klemperer / オットー・クレンペラー
The Philharmonia Orchestra / フィルハーモニア管弦楽団
rec. 1964


Otmar Suitner / オトマール・スウィトナー
Staatskapelle Dresden / シュターツカペレ・ドレスデン
rec. 1971

これほど骨身に染みる曲を他に知らない。

ウイーンの小さな劇場の支配人兼役者エマニュエル・シカネーダーが依頼した《魔笛》は宮廷劇場用オペラではなく、一般大衆が楽しめる「歌芝居」(ジングシュピール)として作曲された。

だから演奏にはそれ程難しいパートは無く、曲としても役者が歌いやすい簡単な構成のものが多い。

しかし “魔笛” を侮ってはいけない。これこそが音楽の結晶体なのだ。その清澄な響きは冷たい水のように体に染み渡り、大いなる感動として記憶される。

こんな風に書くと大袈裟だと思われるが、ドイツ・オペラの元祖、《魔笛》はそれほどの作品なのだ。ついでに大風呂敷をもう一枚広げると、この音楽を聴いて何も感じない輩は音楽を聴くのを止めた方がいい。

疾走感の中にも微かな焦燥感が漂う序曲、ユーモラスなパパゲーノの歌声、コロラトゥーラと超高音の歌唱が炸裂する夜の女王のアリア、そして最後のハッピーエンドまで、そこには音楽の全てが、α (アルファ)から ω (オメガ)まで、たっぷり詰まっている。それは迫りくる死の直前に微かに聴こえた、もう一つの世界からの音を譜面に記したものなのだろうか。

順当に選べばカール・ベーム盤あたりとなるのだが、全体的に少し重たいクレンペラー盤を選んだのは夜の女王役のルチア・ポップが素晴らしいからだ。彼女の歌う2曲のアリアを聴くためだけにクレンペラー盤を買っても損はしない。

それに第1の待女にエリザベート・シュワルツコップ、第2の待女にクリスタ・ルードヴィッヒという凄いオマケまで付いている。

スウィトナー盤は、その引き締まった音創りと共に、レチタティーヴォ部分のドイツ語の整合性が抜群。レチタティーヴォ部分がカットされているクレンペラー盤を見事に補完している。



Letzten Sinfonien, Nos. 35, 36, 38, 39, 40, 41 /
後期交響曲 第35番、第36番、第38番、第39番、第40番、第41番




Rafael Kubelik / ラファエル・クーベリック
Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks / バイエルン放送交響楽団
rec. 1980

これほど見事な交響曲群を他に知らない。

これらの作品群には緊密な流れがあり、それぞれの出来はあまりにも素晴らしい。人生で一度は第35番から第41番まで、きっちりと体調を整え、まとめて聴きたいものだ。しかしそこまでの集中力と体力と時間、残っているのだろうか・・・。

カール・ベーム、ヘルベルト・フォン・カラヤン、レナード・バーンスタインなど有名処が後期交響曲を録音しているが、私はご贔屓のラファエル・クーベリック盤を選ぼう。

どの演奏も穏やかでありながら一本芯が通っており、細部まできっちり磨きこまれた見事な演奏。古楽器演奏やピリオド奏法が全盛の頃の録音だが、「それがどうした!」と言いたくなる名演奏集。

セットものではなく、3枚に分けてバラ売りされているので、見つければ3枚ともまとめて買うことを強くお奨めします。



Sinfonie No. 41 C-Dur "Jupiter" / 交響曲 第41番 ハ長調『ジュピター』

Otmar Suitner / オトマール・スウィトナー
Staatskapelle Dresden / シュターツカペレ・ドレスデン
rec. 1975

Academy of Ancient Music / エンシェント室内管弦楽団 ※実に奇妙な和訳
Christopher Hogwood / クリストファー・ホグウッド
rec. 1982


Rafael Kubelik / ラファエル・クーベリック
Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks / バイエルン放送交響楽団
live rec. 1985

Frans Brüggen / フランス・ブリュッヘン
Orchestra of the 18th Century / 18世紀オーケストラ
live rec. 1986

これほど端正な顔立ちの曲を他に知らない。

死の3年前にモーツァルトが残した最後の交響曲は依頼主もおらず、誰の為に作曲したのかは分からない。立体的な造形感覚に優れ、細部に至るまで均整のとれたこの曲は、まるで聴くギリシア彫刻だ。壮厳な中にも微かな甘味が添えられている。

全くもって男前な曲だ。

ドイツ・ザクセン州が誇る老舗のシュターツカペレ・ドレスデン、古楽器演奏の西の横綱、エンシェント室内管弦楽団、戦後生まれの高性能オケ、バイエルン放送交響楽団、古楽器演奏の東の横綱、18世紀オーケストラで聴き比べるのも楽しい。

しかしクーベリックのライブ盤のとてつもない燃焼度と躍動感は奇跡的。



Klavierkonzerte No. 21 C-Dur / ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調


Friedrich Gulda / フリードリヒ・グルダ (ピアノ)
Claudio Abbado / クラウディオ・アバド
Wiener Philharmoniker / ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
rec. 1974

これほど気品に満ちた曲を他に知らない。

堂々としたかまえの中にも優美さを失わない第1楽章。極楽浄土からこぼれてきた音色のように耽美で抒情的な第2楽章。はつらつとした躍動感あふれる第3楽章。

グルダのピアノも見事だが、アバドがオーケストラから引き出す艶やかな音色も良し。

同じコンビの第20番、第25番、第27番も素晴らしい。



Hornkonzerte, Nos. 1, 2, 3, 4 /
ホルン協奏曲 第1番、第2番、第3番、第4番


Peter Damm / ペーター・ダム (ホルン)
Herbert Blomstedt / ヘルベルト・ブロムシュテット
Staatskapelle Dresden / シュターツカペレ・ドレスデン
rec. 1974

これほど大らかな曲を他に知らない。

ジャズ・低音系の音を愛する私にとって、これらのホルン協奏曲には特別の愛着を感じる。ぼわ~~っと一面に広がる低音。そしてそれを後ろから支える力加減の塩梅が絶妙なオーケストラ。たまりません。

当時のシュターツカペレ・ドレスデンが誇る首席ホルン奏者、ペーター・ダムのホルンを聴くべし。



Divertimento D-Dur, K.136 "Salzburg Sinfonie No. 1" /
ディヴェルティメント 第1番 ニ短調 K.136 “ザルツブルク・シンフォニー” 第1番

Jean-François Paillard / ジャン=フランソワ・パイヤール
Orchestre de chambre Jean-François Paillard / パイヤール室内管弦楽団
rec. 1977


Ton Koopman / トン・コープマン
Amsterdam Baroque Orchestra / アムステルダム・バロック管弦楽団
rec. 1989

これほどノリの良い曲を他に知らない。

もしモーツァルトがこの曲を作った時代にラジオ放送があったら、この曲はたちまちヒットチャートNo.1 ヘ躍り出ただろう。

青臭さと音楽の楽しさが凝縮されたような愛すべき一品。

パイヤールの洗練されたフランス風のスマートで穏やかな演奏も心地良いが、トン・コープマンの古楽器によるキリッと引き締まったネーデルランド風の味付けも良し。



※ 関連ページ ≫ 追悼 : Otmar Suitner / オトマール・スウィトナー

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