2010年9月22日水曜日
Roxy Music / ロキシー・ミュージック
Roxy Music / ロキシー・ミュージック
1972
このファーストアルバムのジャケットは衝撃的だった。
ブライアン・フェリーが扮するこのケバい女性は一体何者だ?
場末のキャパレー音楽をノイジーにロック風加工を施した刺激的な音楽がアルバムから溢れ出る。演奏するのは派手なファッションに身をやつした、ちょっとトッポいお兄さんたち。
こんな風に書けば単なるイロモノB級バンドのようだが、ロキシー・ミュージックは、確かに演奏レベル的にはB級だが、美意識レベル的には超B級だ。
ヨーロッパ的な屈折したデカダンスを内に秘めた、美意識過剰気味のインテリ・バンド。それがロキシー・ミュージックなのだ。
ロキシー・ミュージックの音楽に対するアプローチは、美意識至上主義的なもので、優れた演奏力を聴かせる音楽至上主義的なものではない。
ロキシー・ミュージックの中核メンバー、ブライアン・フェリーはニューカッスル大学に在籍していた頃、リチャード・ハミルトンのもとで美術を学ぶ。
このブライアン・フェリーの学歴がロキシー・ミュージックについて語る場合、ポイントになるのではないかと思う。
リチャード・ハミルトンはイギリスの画家で、ポップアートの先駆的作品とされる『Just what is it that makes today's homes so different, so appealing ? / 一体なにが今日の家庭をこれほどまでに変化させ、魅力的にしているか』(1656年)の作者として有名だ。
リチャード・ハミルトンに学んだブライアン・フェリーは、ポップアート的なセンスだけではなく、西洋近代美術に流れる美的感覚も同時に吸収したのだろう。例えば第二次世界大戦前のワイマール共和国時代に開花したドイツ表現主義。
ファーストアルバムから聴こえる歪んだ毒々しいサウンドは、ドイツ表現主義の画家、エルンスト・キルヒナーやエミール・ノルデのパレットから零れ落ちた色彩のようだ。
ブライアン・フェリーが女装したジャケットの写真はマレーネ・ディートリッヒ主演のドイツ映画『Der Blaue Engel / 嘆きの天使 』(1930年)からのパロディのように見える。それは堅物の教師がマレーネ・ディートリッヒ演じるキャバレーのダンサーに魅せられ、荒廃した生活を送り、破滅してゆく姿を描いた映画だ。
ブライアン・フェリーが演じたのは、《Re-Make / Re-Model / リ-メイク / リ-モデル》したのは、マレーネ・ディートリッヒが演じた退廃的な美貌と脚線美を誇るキャバレーのダンサーではないだろうか。
またバンド名の “Roxy” は1950年代にイギリスで事業展開していた映画館チェーン “Roxy” に因んでいる。キャバレーではないが、映画館も一般大衆に安い娯楽を提供する場であることに変わりはない。
ポップアート独特のギラリとした通俗性と第二次世界大戦前にドイツ表現主義が産み落とした頽廃美が微妙なバランスを保ちながら共存しているのがファーストアルバムの特徴だ。
ファーストアルバムには、音楽だけではなく、深読みの面白さがる。
音楽的な完成度ではラストアルバムの『Avalon / アヴァロン』(1982年)がベストだろう。
陶酔感溢れる名曲《More Than This / 夜に抱かれて》(実に妙な日本語訳)など、デビューから10年後のブライアン・フェリーの美意識が結晶した名アルバムだ。
《The Space Between / ザ・スペース・ビトゥイーン》のようにブラック・ミュージックを独自に消化した曲も見事な出来だ。
そして最後には切なくも美しいインストナンバー、《Tara / タラ》が静かに流れる。
多分このアルバムを制作する際、ブライアン・フェリーは19世紀の中頃にイギリスで活動した芸術家グループ、ラファエル前派の作品を意識していたのではないだろうか。
中世の伝説や文学を好んだラファエル前派と同様に、主題は中世の騎士道物語、アーサー王伝説と強く結びついている楽園伝説、Avalon / アヴァロンから。
ジャケットに漂う黄昏た雰囲気。装飾的とも言える音のタペストリー、エコーの効いたソフトな音作り、細密な演奏力はラファエル前派の絵画と同質の陶酔感を生み出す。
ラストアルバムにも、音楽だけではなく、深読みの面白さがる。
そしてブライアン・フェリーは最後の一捻りを加える。
このアルバムは、かつての大英帝国の植民地、カリブ海に浮かぶバハマの首都・ナッソーで収録された。それだけにこのアルバム全体には、マリンブルー色をした、程好いトロピカルテイストが加味されている。
Avalon / アヴァロンは、アーサー王や英雄たちが死後運ばれた楽園は、イギリス近海にある島ではなく、遠い南国の海にあるのだろうか?
And More...
Avalon / アヴァロン
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音楽
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