2009年11月4日水曜日

Marvin Gaye / マーヴィン・ゲイ


What's Going On / ホワッツ・ゴーイン・オン
1971

脂身が少なく、こってり感が無い。

Marvin Gaye / マーヴィン・ゲイの音楽は、料理で例えれば、バターなどの動物性脂肪をたっぷり使った伝統的なフランス料理ではなく、軽いソースや新鮮な素材を活かした「ヌーベル・キュイジーヌ」風なのだ。

しかし都会的に洗練された味付けの奥に、きっちりと伝統的なゴスペルの風味を残している。

ジェームス・ブラウン
サウスカロライナ州バーンウェルに生まれ、ジョージア州オーガスタにて育つ。

オーティス・レディング
ジョージア州ダウソンに生まれ、ジョージア州メイコンにて育つ。

マーヴィン・ゲイ
首都ワシントンD.C.に生まれ、育つ。

南部に育った二人と違い、アメリカの首都で生まれ、育ったマーヴィンは都会っ子なのだ。この辺りも彼の音楽テイストを形成している要素の一つだと思う。

そして、多分一番大きな要因はマーヴィンが所属していたのがモータウン・レーベルだということだろう。

モータウンは「黒人向けのR&Bではなく、白人層にも自分たちの音楽の良さを理解して欲しい」という思いからベリー・ゴーディ・ジュニアが創設したレーベルだ。

白人層にアピールするため、モータウンはそれまでのR&Bに潜む、酒やドラッグなどのマイナスイメージや汗臭くて黒いイメージを取り除き、都会的で洗練された音楽を、まるで自動車の生産ラインを稼動させたように、大量に生み出し、1960~1970年代のヒット・チャートを賑わした。



そんな背景から生まれたのが『What's Going On / ホワッツ・ゴーイン・オン』。

しかしこのアルバムは “モータウン工場” が誇る、ヒット曲作りのプロたちによる分業体制が生み出したものではない。

このアルバムが含む反戦、貧困、環境といった社会問題をテーマに据えたアルバム作りは、シングル盤が中心であったブラックミュージックの世界においては画期的なものだった。それを実現させるため、マーヴィンは従来のヒット曲生産のために確立された分業体制から離れて、自分自身でこのアルバムをプロデュースしている。

自分自身のアイデアを実現するため、自分の作品を自分自身でプロデュースする。

今では当たり前のことだが、当時のブラックミュージックの世界においては、とても大きな一歩だった。



しかし何と重いテーマを、何と華麗に洗練された音楽にマーヴィンは包み込んだのだろう。

マーヴィンの熱唱の奥からじわりじわりと滲み出る慈愛。

人生で一度は聴いても絶対に損の無いアルバムの一枚だ。

ジャケットの雨は人々に降りかかる当時の社会問題を象徴しているのだろうか。

雨に打たれながらもマーヴィンはグッと遠くを見つめる。

穏やかな目つきで。



マーヴィンは45回目の誕生日の前日、実の父親に射殺される。

マーヴィン・ゲイ:享年44歳。

合掌。

1 件のコメント:

TAMAGO さんのコメント...

マーヴィン・ゲイ、JB、
オーティス・レディング・・・・
愛しいアーティストたちの名前が
続々と登場しているので、
嬉しい限りです。

「What's Going On」を
久々に聴きながら、
これを書いています。
洗練されつつも熱い、
実にチャーミングな曲ですね。

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